囚人から宰相へ 創世記41章

 献酌官長の夢を解き明かしてから2年後に、ヨセフの人生に大きな転機が訪れます。王が見た夢を解き明かし、それに対する適格な対策を進言したことによって王に認められ、彼は監獄の囚人から一挙にエジプトの宰相の座へと駆け上がるのです。もちろん、神の御手があったからです。神はヨセフがカナンで見た夢をファラオが見た夢を通して実現しようとしておられたのです。

 ファラオは二つの連続した夢を見ました。ナイル川から上がって来た肉づきの良い七頭の雌牛が、その後から上がって来た醜い痩せ細った七頭の雌牛によって食い尽されたという夢と(2-4節)、一本の茎からよく実った七つの穂が、その後から出て来たしなびた七つの穂に呑み込まれてしまったという夢です(5-7節)。王が見た夢を王の知恵者たちは解き明かすことができませんでした。そのとき、献酌官長は獄中で自分たちの夢を解き明かしたヨセフのことを思い出し、ヨセフは急遽監獄から王の前へと呼び出されることになりました。王から「おまえは夢を聞いて、それを解き明かすと聞いたのだが」と問われたとき、ヨセフは「私ではありません。神が・・・知らせてくださるのです」と謙遜に答えています。

 ヨセフは、王の見た二つの夢は「一つの夢」であり、七年の豊作の後に七年の飢饉が訪れることを神が予告されたものであると解き明かしました。ヨセフは「神が」という言葉を繰り返しています(25,28節)。32節では、夢が繰り返されたのは、「このことが神によって定められ、神が速やかにこれをなさるからです」と、夢の成就は確実であり、それが差し迫っていることを示しました。ヨセフは、王の心を自分にではなく神に向け、自分が信じる神こそが、真の主権者であることを、王を前にして恐れることなく明らかにしているのです。

 ヨセフは夢の意味を解き明かすだけではなく、飢饉に備えて、豊作のときに万全の対策を講じておけば、その危機を乗り越えることができること、そのために、「さとくて知恵のある者」(国の責任者)や「監督官」(地方)を置き、それに当らせるようにと進言しました(33-36節)。ヨセフの言葉を聞いた王と家臣たちは、神からこのような知恵を与えられているヨセフ以外に、国家の危機を任せるにふさわしい人物はいないとし(38,39節)、王はヨセフに「おまえが私の家を治めるがよい。私の民はみな、おまえの命令に従うであろう。私がまさっているのは王位だけだ」(40節)と言って、エジプトを支配する地位と権威を彼に与えました。

 ヨセフは三十歳という若さで、信じられないような地位と権威を手にしました。しかし、それによって彼は傲慢になることはありませんでした。王の信頼に答えるために託された仕事に励んだのです。そのことは、「エジプト全土を巡った」との言葉に現れていると言っていいでしょう。

 試練を乗り越えることも大変ですが、成功や繁栄の中を歩むのも容易ではありません。オズワルド・サンダースは「突然の高揚は、しばしば高慢となり、転落を招く。生き残るための最も厳しい試練は繁栄です」とさえ語っています。試練の時は、必死に神を見上げて、神に信頼することができても、成功や繁栄のときは、自分がそれにふさわしいからだと勘違いをして、神を忘れてしまうことがあるからです。 ヨセフは逆境だけでなく、順境においても、変わらない歩みを続けているまれな人物と言えるでしょう。それは自分の人生を導いてくださっている神を忘れなかったからです。


                       このメッセージは2022.2.6のものです。