二人の選択 ルツ記1章6-18節

 ここには人生の大きな岐路にたつ二人の女性たち(オルパとルツ)の選択があります。彼女たちの選択は何に基づくものだったのでしょうか。

 ナオミは、夫が亡くなり、二人の息子たちも亡くなり、しかも故郷のベツレヘムでは飢饉が去ったということを聞いて(6節)、「帰る」ことを決意しました。もはや、モアブに留まる理由を見いだすことができなかったのではないでしょうか。

 ナオミは当初、同じ境遇を経験している二人の嫁たちを連れて戻るつもりでいたようです。しかし、若い二人の嫁たちの将来を考えたとき、モアブ人の彼女らがベツレヘムに行っても幸せに暮らせる保証が何もない、連れて行くべきではないと思い直したのでしょう。二人の嫁がそれぞれの夫や自分にしてくれたことを思った時に、主の恵みを願わずにはいられないナオミでした(8節)。モアブの地で新しい夫を見つけて人生をやり直して欲しいと願ったのです(9節)。

 ナオミは二人の嫁たちに、計四回「帰りなさい」(8,11,12,15節)と言っています。ナオミが、嫁たちに帰るように説得することば(11-13節)は、レビラート婚(申命記25:5-10)を念頭においているように思われます。ナオミは繰り返し「~ですか」(11,13節)とたたみかけるようにして、帰るように説得しています。

 ナオミと一緒に行くことを決意していた嫁たちでしたが(10節)、ナオミの説得を受けて、オルパは帰ることを選択しました。オルパの選択は、人間的には常識的な、普通なら賢明な選択といっていいのかもしれません。

 オルパの選択を受けて、ナオミはルツに「あなたも弟嫁の後について帰りなさい」と説得を続けます。しかし、ルツはナオミと一緒に行くことを堅く決意していました。ルツのことばからは、ナオミに対する献身と深い愛情を読みとることができます。そこには、単なる嫁と姑の関係を越えた絆があるように思われます。

 ルツの「あなたの民は私の民、あなたの神は私の神」という告白は、ナオミの「あなたの弟嫁は、自分の民とその神々のところに帰って行きました」との言葉に対応するものですが、他の異邦人の告白と比べても素晴らしいものです(参 ヨシュア2:11,Ⅱ列王5:15,17)。また「信仰の父」と呼ばれるアブラハムと比較しても決して劣るものではないでしょう。いや、優るものであるかもしれません。自分の生まれた故郷を離れて、全く知らない土地に行くという点では同じですが、アブラハムには「あなたを大いなる国民とし、あなたを祝福」するとの確かな神の約束があったのです(創世記12:2)。しかし、ルツにはそのような確かな約束は何もなかったのです。

 人生の大きな岐路に立って、オルパとルツの選択は大きく分れました。ルツはナオミと一緒にベツレヘムへ行くことを選択しました。ルツは予想される現実に対して、とても甘い見通しをもっていたわけではありません。また、夫や息子たちを失って一人ぼっちのナオミがあまりにもかわいそうだという感情に押し流されたのでもありません。ナオミを愛する故に、どのような犠牲をもいとわないでついて行こうという覚悟なのです。神以外に人間的には何の保証もないことを承知の上で、ナオミへの愛と神への信頼(参 詩篇37:5、ルツ2:12)をもってベツレヘム行きを決断したのです。

 ルツは自分の信仰による決断が後の日にどのように報いられるか、その全貌を知ることはなかったでしょう。しかし、私たちはそのことを知っています。打算的な歩みではなく、神への信頼を持って歩む者に対する神の報いは、人の思いを越えています。


                  このメッセージは2022.7.17のものです。