アハブ 恐ろしい女と結婚した王

 アハブのように、自らを裏切って主の目に悪であることを行った者は、だれもいなかった。彼の妻イゼベルが彼をそそのかしたのである(Ⅰ列王記21章25節)。

 北王国の歴代の王たちは「主の目に悪であることを行なった」と評価されていますが、その中でも悪名高き王と言えばアハブを挙げることができるでしょう。彼自身、父オムリと同様に悪い王でしたが、彼をより悪い王としたのは、彼が結婚した妻イゼベルの影響だといっていいでしょう。彼女はシドン人(別名フェニキヤ人 現在のレバノン共和国)の王エテバアルの娘でした。アハブはなぜ、北王国と隣接する地中海貿易で繁栄したフェニキヤの王女と結婚したのでしょうか。おそらく、北東に位置するアラム(現在のシリア)をけん制し、フェニキヤとの同盟関係を強化するための政略結婚だったと思われます。イゼベルはバアルの熱心な崇拝者であり、北王国に異教を持ち込み、それを強力に推進しました。彼女のために首都サマリアにはバアルの神殿が建てられ、彼女にはお抱えの預言者たちが大勢いました(18:19)。彼女によって主の預言者たちは迫害され、殺されました(18:4,13)。そのような状況の中で主の預言者として活躍したのが旧約聖書の預言者を代表するエリヤです。Ⅰ列王記17-22章には、アハブ王の治世においてエリヤがどのような働きをしたかが記されています。

 アハブ王がどのような王であったか、その妻との関係性を最も示している箇所は21章でしょう。そこから見えるのは幼児性と妻に支配されていたアハブ王の姿です。

 21章には、イズレエルの王宮のそばにあったナボテのぶどう畑を恐ろしい策略で没収しているアハブ、イゼベル夫婦があります。ナボテは王様の願いであっても、先祖からゆずり受けた畑を譲ることはできないときっぱりと断りました。彼が断ったのは個人的な理由ではなく、神の律法に従ったに過ぎません(参 レビ25:23、民数36:7)。王はナボテから断られたとき、自分の思い通りにならないために幼児のように食事を拒否しふて寝しています。それは不本意であっても諦めなければならないことであったからです。

 しかし、そのことを知った妻のイゼベルは、ナボテを罪に陥れて殺害し、ぶどう畑を没収することを計画し、実行に移させました。神の律法など無視して生きていながら、この時ばかりは律法を利用してナボテを殺しているのです(申命17:6、レビ24:16)。彼女の哲学は「欲しいものはどのような手段を使ってでも手に入れる」です。実におそるべき女性です。もし、アハブひとりだったなら、そこまでしてぶどう畑を手に入れようとは考えなかったでしょう。しかし、妻の恐ろしい計略を黙認したことで彼も同罪です。もしかすると、日頃から妻に支配されていて、その行動を止めさせる勇気がなかったのかもしれません(参 21:25)。

 神はこの夫婦の恐るべき罪に対してエリヤを遣わし、裁きを宣告されます(21:19,23)。王であるアハブの死は22章38節に成就しています。王は裁きから自分を守るために変装して戦いに臨みますが、敵の兵士が「何気なく」引いた矢に倒れてしまいます(22:34)。人の目からは隠れることができたかもしれませんが、神からは逃げることはできなかったのです。罪を主導した妻のイゼベルの死はⅡ列王記9章36節に成就しています。恐ろしい罪の発端は、アハブが「隣人のものを欲した」ことに始まりました(参 出エジプト20:17)。アハブは結果的にはその死によって手に入れたものを楽しむことはありませんでした。与えられているものを感謝し、喜び、貪欲にならないように気をつけましょう(参 ルカ12:15)。

                      このメッセージは2020.8.30のものです。