イエス・キリストの系図 マタイ1章1-17節
聖書には多くの系図がありますが、それらはユダヤ人たちが自分たちのルーツをいかに大切に保存してきたかを物語っています。マタイの系図はアブラハムに始まりイエス・キリストに至る約二千年に及ぶ期間を、三つに区分していることが分かります(17節)。マタイはユダヤ人が読むことを想定しているので、旧約聖書からの引用が他の福音書よりも多いのが特徴の一つです(Garland28頁 マタイ42回、マルコとルカ19回、ヨハネ14回)。さて、私たちはこの系図からどのようなことを読み取ることができるでしょうか。
まず、旧約聖書に約束されていたキリスト(メシア)がついに来られたことが示されています。1節に「イエス・キリストの系図」とあります。「イエス」は名前です。「キリスト」は称号で、ヘブル語では「メシア」(救い主)を意味しています。ガラテヤ4章4節には「時が満ちて、神はご自分の御子を・・遣わされました」とあります。旧約聖書には数多くのメシア預言があり、神はメシアの到来を約束していました。そのメシアがついに来られたということを系図は示しているのです。
次に、神の約束がキリストにおいて成就しているということです。系図には「アブラハム」と「ダビデ」が重要な人物として最初に出てきます。「アブラハム」はユダヤ民族の祖ともいうべき人物です。神はアブラハムに「地のすべての部族はあなたによって祝福される」(創世12:3)と約束され、さらに「あなたの子孫によって、地のすべての国々は祝福を受けるようになる」と約束されました。ガラテヤ3章16節によると「あなたの子孫」とは「キリスト」を指していることがわかります。神が約束された祝福(義認)がキリストにおいて成就しているのです。
もう一人の重要人物は「ダビデ」です。イスラエルの有名な王様です。神は預言者ナタンを通してダビデにも約束をされました。「あなたの王座はとこしえまでも堅く立つ」(Ⅱサムエル7章16節)と。神はユダ族から王が誕生することを約束され(参 創世49:10)、そのユダ族から誕生したのがダビデ王です。ダビデの王朝(南ユダ王国)は北イスラエル王国よりも長く続いたものの、ついにはバビロンによって滅ぼされ「エコンヤ」王(11節)もバビロンへと捕囚となり、神の約束は損なわれてしまったかのように思われました。しかし、神の王権の約束は誕生したメシアによって成就することとなるのです(参 ルカ1:32)。神はご自身の約束を実現することができる力あるお方であり、私たちが信頼できるお方なのです。
最後に、神の恵みはすべての人に開かれているということです。マタイの系図には、ユダヤ人だけでなく、異邦人の女性たちも出てきます(「ラハブ」と「ルツ」は異邦人であり、「タマル」と「ウリヤの妻」も異邦人の可能性がある)。彼女らは疎外され、軽蔑され、人権を踏みにじられた女性たちです。しかし、彼女らは神の恵み深い御手によってメシアの家系の中に入れられているのです。マタイの福音書には主がその信仰を賞賛された異邦人が登場します(マタイ8:5-13「百人隊長」、15:21-28「カナン人の女」)、また宣教の大命令として知られる28章19節には「あらゆる国の人々を弟子としなさい」とあり、救いの恵みはユダヤ人だけのものではなく異邦人に対しても広く開かれていることを示しています。系図にはユダヤ人も異邦人も、地位の高い者も低い者も、男性も女性も登場します。そのことは神の恵みはすべての人に開かれていることを示していると言っていいのではないでしょうか(参 テトス2:11,ガラテヤ4:28)。
このメッセージは2022.12.18のものです。