ヨセフの苦悩と信仰 マタイ1章19-25節

 夫のヨセフは正しい人で、マリアをさらし者にしたくなかったので、ひそかに離縁しようと思った(マタイ1章19節)。


 キリスト誕生の背景には、キリストの両親となった若いカップルの戸惑いや苦悩がありました。マタイは法的な父親(養父)となったヨセフの苦悩を明らかにしています。当時、ヨセフとマリアは婚約中であり、二人はまだ実質的な夫婦生活に入っていませんでした(18節 婚約期間は一年ぐらい)。しかし、ユダヤの婚姻法では婚約中のカップルは結婚と同等な関係にあるとみなされ、別れるには離婚の手続きが必要でした。このような婚約中のヨセフに信じられない事実が明らかになりました。それは婚約相手のマリアが自分のあずかり知らない子を妊娠しているということでした。聖書はヨセフがその事実をどのように知るに至ったかについては沈黙していますが、いずれにしろ、ヨセフの心境を察するに余りあるものがあります。

 当時の社会においてはこのような場合、婚約を継続して結婚生活に入ることは考えられないことでした。それでヨセフに残された選択肢は二つしかなかったものと思われます。一つは離婚を公にして別れる方法です。この場合には相手の不貞の事実を法廷で暴き、その罪の結果を負わせることを意味しました。もう一つは内密に離婚して別れるという方法です。この場合は婚約者をみごもらせて身勝手に別れたという悪評を背負って、その後の人生を送らなければならないことを意味しました。ヨセフは婚約者のマリアを愛していたので、後者の方法による選択を決意しつつも悩んでいました。そのような時に神からの夢による介入があったのでした。

 夢の中でみ使いは婚約者の妊娠の意味を明らかにします。それは婚約者の裏切りによるものではなく、「聖霊による」ものであること(20,18節)。また、その子は「ご自分の民をその罪からお救いになる」という使命をもって誕生して来られること。そして、み使いはその男の子に「イエス」と名づけるようにとヨセフに命じました(21節)。ヨセフはみ使いの告知を神のご計画として受け入れ、本来ならありえない結婚生活の中に入っていったのです(24節)。

 ヨセフがみ使いの告知を神からのものとして素直に受け止めることができたのはなぜでしょう。み使いという超自然の霊的な存在による告知ということもあったでしょうが、もしかするとマリアも同様の告知を受けていたことを彼女から聞いていたからかもしれません(ルカl:28-)。いずれにしろ、夫婦の営みとは関係なく子供が誕生することは、私たち以上に、この若いカップルには信じがたいことであったに違いありません。しかし、彼らはこの出来事を神のご計画によるものであることを信じ、互いの愛を育み、両親としての責任を果たしていったのです。

 神のご計画は人の思いをはるかに超えています。インマヌエル(神は私たちとともにおられる)の約束が実現するためには、神のご計画を信仰によって受け止め、人間的な期待や願いを捨て、妻の盾となり誕生してくる子の養父となることを選択したヨセフがいたのです。

 ヨセフはマリアほど目立つ存在ではないかも知れません。しかし、重要な役割を担った人物であることを私たちは忘れてはなりません。神のご計画は何ものによっても妨げられることはありません。しかし、その一方で、神のご計画は神の御心を信仰によって受け止めるヨセフのような人々によっても実現していくものなのです。


      このメッセージは2021.12.12のものです。