テトスへの指示と依頼 テトス3章9-15節

 今年の1月に牧会書簡の講解説教が始まりましたが、ついに最後の箇所に来ました。パウロは愛する弟子テトスに最後の指示、依頼、そして挨拶と祈りをもってこの手紙を締めくくっています。

 9-11節の指示は、偽教師の取り扱いです。すでに、偽教師に関しては1章10-16節で取り上げていました。パウロは偽教師たちの四つの問題(誤り)を指摘して、それらを「避けなさい」と命じています。「愚かな議論」(Ⅱテモテ2:23)「系図」(Ⅰテモテ1:4)「争い」(Ⅰテモテ6:4)「律法」(Ⅰテモテ1:7)、また1章10節の「作り話」(Ⅰテモテ1:4)といった共通の言葉から、クレタ島でテトスが直面していた偽教師たちとエペソでテモテが直面していた偽教師たちには共通点を見いだすことができます。パウロは彼らの誤りを避ける理由を「無益で、むなしい」からとしています。それは「良いわざ」が「有益」(8節)なのとは全く逆で「無益」なものでした。

 パウロはさらに、「分派を作る者」(共同訳「分裂を引き起こす人」)に言及し、「一、二度訓戒した後、除名しなさい」と、段階的な取り扱いを命じています。主イエスが段階的な取り扱いを命じられたことを思い起こさせられます(マタイ18:15-17)。戒規の執行の目的は「除名する」ことではなく、悔い改めへと導き、真の交わりを回復することだからです。パウロは「除名しなさい」と厳しく命じる理由を11節に示しています。

 12、13節には、テトスへの依頼を見ることができます(四人の名前が出てくるが、「アルテマス」と「ゼナス」はここにしか登場しない)。一つ目の依頼は、「ニコポリスにいる私のところに来てください」というものです。殉教前にはテモテに「何とかして」自分のところに来てくださいと依頼していました(Ⅱテモテ3:9)。今テトスがクレタ島で担っている責任を「アルテマスかティキコ」を派遣して担わせるので、彼にはニコポリスで冬を一緒に過ごすために来て欲しいと依頼しています。

 アジア人「ティキコ」(使徒20:4)については、テモテ同様にパウロが信頼する同労者です(エペソ6:21,コロサイ4:7)。

 二つ目の依頼は、「律法学者ゼナスとアポロ」の「旅立ちをしっかり支えてあげてください」というものです。ある人たちは、二人はまだクレタ島に来ていないので、来たならもてなしてほしいという意味にとっていますが、今クレタ島に来ていて、旅立ちのために必要なものを満たして送り出してほしいという意味の方が自然でしょう。「アポロ」については、彼はアレキサンドリア生まれで、雄弁家でした(使徒18:24)。パウロが創設したコリント教会で奉仕したこともありました(Ⅰコリント3:6)。

 14節は二つ目の指示で、「良いわざに励む」(8節にも同語が)ように指導することが命じられています。具体的には、「差し迫った必要に備えて」とあるので、貧しい人たちの救済か、また旅人の必需品を満たすことなどが想定されているのでしょう。

 手紙の最後は、牧会書簡に共通する「恵みがあなたがたとともにありますように」との祈りで締めくくられています(Ⅰテモテ6:21,Ⅱテモテ4:22)。テトスへの手紙では「すべて」ということばが加えられています。手紙の冒頭でテトス個人に「恵み」を祈ったパウロは(1:4)、テトスが牧会する教会のすべての兄弟姉妹たちを念頭において恵みを祈っています。「恵み」は私たちの救いをはじめとして、キリスト者生活全般を支える祝福です。恵みを必要としない人はいません。


 このメッセージは2021.12.5のものです。 なお、牧会書簡(Ⅰテモテ、Ⅱテモテ、テトス 計34回のメッセージ)のさらに詳しい要約は、長野聖書バプテスト教会説教集『健全な教えと敬虔な生活』(B5版、78頁)にまとめられています。