ノア 箱舟と信仰 創世記6-8章

 ノアは、すべて神が命じられたとおりにし、そのように行った(創世記6章22節)。

 「ノアの大洪水」は旧約聖書の中でも最も知られている出来事の一つでしょう。今回は、そこに登場するノアを取り上げます。大洪水について、主イエスはそれを史実として言及されています(マタイ24:37-)。

 まず、ノアの人物を取り上げる前に、大洪水が起こった背景から見ていくことにしましょう。なぜ、このような人類を消し去る洪水が起こったのでしょうか。創世記の6章のはじめには、「神の子ら」と「人の娘たち」との雑婚が指摘されています。「神の子ら」とは、敬虔なセツの子孫を、そして、「人の娘たち」とは、不敬虔なカインの子孫の女たちを指していると考えられます。セツの子孫の男たちとカインの子孫の女たちとの雑婚によって、セツの子孫に悪影響を及ぼし、驚くべき堕落が浸透していったのです。

 11-13節には、洪水前の人間の罪がとても深刻なものであったことを示しています。創世記1章において、神がご自身の造られたものをご覧になったときの評価は「非常に良かった」とありましたが、ここでは「堕落」や「暴虐」ということばが繰り返されていることからも分かるように、非常に良かったものが、非常に悪くなってしまったのです。神は人の罪の現実に心を痛めつつ忍耐して来られました。しかし、ついに新たなる人類の再出発をノアとその家族に託そうとされたのです。

 聖書はノアについて、世の罪が非常に深刻な中にあって、「正しい人」であり、「全き人」であったとしています。彼は罪を犯すことのない完全な人であったという意味ではありません。神を恐れつつ、神の御前に誠実に応答して歩んでいたということです。そのことが並行句の「神とともに歩んだ」という言葉で説明されています。

 ノアはあるとき、「まだ見ていない事柄について神からの警告を受けました」(ヘブル11:7)。「まだ見ていない事柄」とは「大洪水」のことです。神はノアに、「地上のすべてのものは死に絶える」と警告し、「箱舟を造りなさい」(14節)と命じられました。そして箱舟の資材(ゴフェルの木)、大きさ(長さ132m、幅22m、高さ13m)、構造(三階)を示されました。とほうもない巨大な建造物です。想定されるリスクに備えることは賢明ですが、神がノアに命じられたことは想定できないような事だったのではないでしょうか。しかし、ノアは神の御声を信仰によって受け止め、箱舟の建造に取りかかりました。

 箱舟の大きさを考えると、完成には相当長い期間を要したはずです。ノアが水辺でもない内陸で途方もない大きな箱舟を造っている姿を考えると、周りの人々の「気が変になったのではないか」と言った嘲りや物笑いの種にする人々の声が想像できそうです。ノアは箱舟を造りながら、神が罪に対する裁きとして大洪水を送ろうとされていると人々に証したことでしょう(Ⅱペテロ2:5)。でも彼の声を真剣に受け入れる者はありませんでした。箱舟に入ったノアと妻、三人の息子たちとその妻たち、そして生き物たちだけが生き残ることができたのです(7:23,8:18,19)。

 神はかつて箱舟によって、洪水というさばきから救われる道を備えられました。その神は今日、罪に対する裁きからご自身のひとり子によって救われる道を備えてくださいっています。主イエスは、洪水によって滅ぼされる前とご自身の再臨の前とを並行関係におかれて、ノアの時代と「同じことが起こります」と警告しています(ルカ17:26,27,30)。神は忍耐をもって、すべての人が罪を悔い改めて、キリストという救いのために備えられた箱舟に入るようにと呼びかけておられるのです(参 Ⅱペテロ3:6-9,ローマ8:1)。

                      このメッセージ 2020.10.11のものです。